SANSUIGO CHANNEL

山水郷チャンネルについて

山水郷のデザイン:生きのびるための新しい日本の物語(ナラティブ)

海に囲まれ、山が連なり、雨雪が多く、森と水が豊かな日本列島の自然には「山水」という言葉が似合います。
山水の恵みに満ちたこの列島で、古来、人々は山水の恵みと共に生き、山水と深く関わりながら、独自の文化を育んできました。

しかし、明治の近代化、とりわけ戦後の高度経済成長以後の経済と社会の変容の中で、日本人の山水との関わり方は大きく変化しました。
生活・生業の面での関わりが薄れ、若者達は都市を目指し、結果、山水の恵み豊かな地域の多くで過疎化・限界集落化が進行しています。

一方で、近年、「山水回帰」とでも呼ぶべき現象が目につくようになっています。
Iターン・Uターンした若い世代が、その土地の山水の恵みと人のつながりを生かし、地域を持続可能にするための、新しい取組みを始めています。

私は、山水を手がかりにこの国のこれまでとこれからを論じた『日本列島回復論 この国で生き続けるために』(新潮選書)の中で、山水の恵みが豊かで、人が長く暮らしてきた地域のことを「山水郷」と呼びました。田舎でも過疎地でも農山村でも里山でもなく、あえて山水郷と呼んだのは、新しい物語(ナラティブ)には、新しい言葉が必要だと思ったからです。

私達はどこかで田舎を格下に思っています。最先端は東京にしかなく、田舎は遅れていて、稼げる場所も、楽しいこともないと思っている。「兎追いし」で始まる文部省唱歌『ふるさと』は「志を果たして いつの日にか帰らん 山は青きふるさと 水は清きふるさと」と歌います。夢や志は中央(≒東京)で実現するものだという中央志向・中央集権の物語を私達は知らず知らず内面化してきたのです。

しかし、今、山水郷に根ざし、新しい取組みを始めている人々は、それとは別の、新しい物語を生き始めています。中央からは適度な距離をとり、山水郷を足場に、山水の恵みと人の恵み、過去と未来とから成る、とても豊かな関係世界を生きています。
それはとても希望に満ちた世界です。これからの時代を豊かに生き抜くための鍵がそこにはあると感じます。
山水の恵みに満ちたこの列島の至るところで新しい山水郷のデザインが生まれ、多様な物語が花開き始めています。

そんな新しい時代の息吹を各回のゲストのナラティブから感じてみて下さい。

山水郷チャンネル  ディレクター 井上岳一

日本列島回復論―この国で生き続けるために―

井上岳一/著
新潮社| 2019/10/24
1,540円(税込) ※四六判変型・303頁
日本列島を根本から理解すると見えてくる、その凄まじいまでのポテンシャル。驚異の近代化、数々の復興の原動力となった「国土」と「地方」は、いま再び、未来に不安を抱きつつある私たちを救ってくれるのか。自然、歴史、コミュニティ、テクノロジーを総動員して構築する、全く新しいSDGs、イノベーションの思想。

https://www.shinchosha.co.jp/book/603847/

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井上 岳一

山水郷ディレクター日本総合研究所シニアスペシャリスト

日本総合研究所シニアスペシャリスト、山水郷ディレクター
1969年生まれ。林野庁、Cassina IXCを経て、2003年より日本総合研究所。豊かな山水の恵みと人の知恵・技術を生かした多様で持続可能な地域社会をつくることをミッションに研究・実践活動に従事。
著書に『日本列島回復論』(新朝選書)、共著書に『MaaS』『Beyond MaaS』(共に日経BP)等。南相馬市復興アドバイザー。内閣府規制改革推進会議専門委員。東京藝術大学非常勤講師。

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藤崎 圭一郎

デザイン評論家編集者・東京藝術大学 教授

デザイン評論家、編集者
1963年生まれ。『デザインの現場』編集長を務めた後に、フリーランスとしてデザインに関する記事の執筆、雑誌・書籍の編集に携わる。
主な著書に広告デザイン会社ドラフトの仕事を取材した『デザインするな』。本誌『AXIS』にて生命科学を中心にサイエンスや工学の研究の現場を取材する「Sci Tech File」を連載中。
2010年より東京藝術大学美術学部デザイン科准教授、2016年より同大学教授。

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